WEB定例会第2弾は、時事通信社杉山解説委員の「新型コロナに翻弄される日常」です。杉山解説委員は、長野支局長時代「信州イスラーム世界勉強会」の立ち上げを板垣雄三代表と提唱され、事務局長を務められました。次回WEB定例会は、5月16日ごろ掲載予定です。
新型コロナに翻弄される日常
時事通信社解説委員 杉山文彦
◇汗だく自転車通勤に切り換え
きょうもえっちらおっちら、東京・下石神井の拙宅から約20キロ離れた都心の東銀座にある会社まで、汗だくになりながら愛車(自転車)を漕いでいる。片道ほぼ2時間。下石神井は標高47メートル、銀座は4メートルだから高低差が43メートルある。往路はなだらかな下り坂で多少は楽だが、帰りは登り坂が結構きつい場所も通る。
突然の長距離自転車通勤について、口の悪い家内からは「そんなバカみたいに疲れることをしているのはアンタだけよ!」と連日罵倒されているのだが、これには理由がある。
お察しの通り、新型コロナウイルスだ。お上からいくらテレワークを推奨されても、新聞や雑誌の編集というのは、スタッフが顔を突き合わせる「濃厚接触」の「密集」作業であり、学者のように自宅に籠ってというわけにはいかないところが辛い。
ということで、テレワークなんて夢のまた夢、やむを得ず通勤を続けてきたが、やっぱりコロナは怖い。電車に乗るのも不安になり、それで自転車に切り換えたのだ。
◇「人類は最終的に負けない」
さて、その新型コロナウイルスの脅威を探るために、時事通信社が発行している外務省・在外公館向けのネット雑誌『Janet』では、4月に「新型コロナに翻弄される世界」というテーマで特集を組んだ(写真はJanetの記事を抜粋した電子書籍『e-World Premium』)。私はその編集長だった。表紙はご覧の通り、爆発的感染の元凶といわれる花見の写真である。
巻頭インタビューの相手候補として選んだのは、笹川平和財団の渡部恒雄上席研究員。アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)に長く在籍した安全保障の専門家であり、もともと東北大学出身の歯科医だから、医療問題にも造詣が深い。
ちなみに、この人の父は自民党田中派の大幹部で厚生、自治、通産相を歴任し、今も「政界のご意見番」として活躍を続けている渡部恒三氏だ。「父の後継者にされるのを避けるために私はアメリカへ渡ったのです。安倍さんも小泉さんも、本当は政治家になどなりたくなかったと言っています。誰だって二世は嫌ですよ」とご本人から以前、冗談交じりの「真相」を聞いたことがある。
ともあれ3月半ばに電話すると、渡部恒雄氏はすぐインタビュー企画を快諾してくれた。「実は今、テレワーク中で自宅にいるから、時間はあります」と言う。「夢のテレワークか、いいなあ」と少し羨望を覚えたことは言うまでもない。
3月25日、ちょうど東京都の小池百合子知事が緊急記者会見で「感染爆発の重大局面だ」と強調したその日に、東銀座の弊社へ渡部氏を迎え、インタビューした。
予想以上に話の内容が深く、示唆に富んでいた。渡部氏は最後に「かつてのペスト、あるいはスペイン風邪のときと違って、ワクチンや抗ウイルス薬という技術を人類は獲得しています。だから、それを開発するまでの時間さえ稼げば、新型コロナウイルスには最終的に負けないということは、みんな分かっています。これは人類の蓄積であり、武器です」とウイルスがいずれ敗北することを断言した。
「戦争以上の衝撃、時間稼げば克服可能─新型コロナ」と見出しを付けたインタビュー記事はJanetのアクセスランキングで一時トップに立ち、好評を博した。コロナ禍の恐ろしさを分析するだけでなく、前向きに状況を捉えたところが注目されたのだろう。
渡部恒雄氏がもし父君のように政治家になっていたら、今ごろは親子2代の厚相としてコロナ対策で辣腕を発揮し、日本を救ってくれただろうに、と惜しまれた。(記事は『時事ドットコム』にも転載。URLは
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020040300654&g=int)。
◇国際情報誌e-World Premium
Janetの特集ではこのほか「新型コロナ禍の米中・日韓関係」「トランプ氏の再選戦略に狂い」「欧州民主主義の強靭さが試されるコロナ危機」など、コロナ禍をめぐる世界各地の最新事情について、それぞれの専門家の原稿を掲載した。
もちろんイスラーム世界のことも忘れてはいけない。そこで、中東で感染者が多かったイランについて、第一人者の高橋和夫・先端技術安全保障研究所会長(放送大学名誉教授)から「新型コロナで一段と中国寄りになるイラン」と題する玉稿をいただいた。
このJanetは前述の通り、外務省・在外公館向けで有料のクローズドサイトだが、一般向けにも一部記事を抜粋した月刊の電子書籍『e-World Premium』を出している。発売日は通常毎月7日(5月はゴールデンウイーク明けの10日)で、定価440円(税込み)。購入方法は、
https://www.jiji.com/service/e-world/のURLをまず検索し、電子書店の一覧の中から例えば「楽天kobo」「紀伊国屋」などを選択、手続きを進める段取りだ。
コロナ禍という未曽有の脅威が続く時節柄、情報収集の選択肢を広げる意味でも、このような安価の国際情報誌の活用をお薦めしたい。
杉山文彦(すぎやま・ふみひこ)
時事通信社解説委員
ニューデリー特派員、カイロ特派員として、アフガニスタン内戦や中東情勢など途上国の問題を幅広く取材。パリ支局長、外信部長、長野支局長、編集局総務、Janet編集長を務めた。編著に『世界テロリズム・マップ 憎しみの連鎖を断ち切るには』(平凡社新書)など。信州イスラーム世界勉強会立上げを提唱し、事務局長を務めた。